スチュワデスがわざわざ「右手にレニングラードが見えますよ。」と教えてくれたので、座席は反対側だったけれど、窓際まで見に行った。レニングラードは、古くはペテルブルクと呼ばれ、ロシア皇帝がヨーロッパに憧れて、ヨーロッパ風の都を造ったという程度の知識しかなかったが、飛行機から見下ろすと、ネバ川の三角州にレンガ色の街並みが、幾何学的に、フィンランド湾を取り巻くように広がっている美しさには、興奮のあまり、感嘆の叫びをあげずにはいられなかった。トルストイやドストエフスキーの小説に出てくるペテルブルク。若かった頃の私には完全に別世界であった。今、空からとはいえ、その街並みを目の当たりにしてなんともいえない懐かしい感慨に浸った。やっぱり旅はいい。世界が広がると同時に自分の小ささが見えてくる。


 北海上空を飛ぶ。「フィヨルドが見える。すごいわ。」と辰子が教えてくれる。興奮ぎみだ。日本のリアス式海岸とは全く違う。入り組んだ湾が本当に円い。そして延々と続く。
 日本時間の夜中の12時過ぎ、まだ午後の太陽が眩しいロンドン時間の4時過ぎに、飛行機はロンドン上空にさしかかった。眼下にはロンドンの街並みが接近してきた。同じように屋根の尖ったレンガ色の建物が犇めくように立ち並んでいる。たしかに、緑と家並みとは日本とあまり変わりない感じだが、よくよく見ると、建物や街の感じは異国情緒たっぷりで、なんともいえず気持ちが高ぶってくる。とうとう憧れのヨーロッパに来たのだ。


 しかし、ロンドンのヒースロー空港に降りた途端に夢心地だった機上と一変して、急に慌ただしくなった。その最初は現地通貨への両替だった。とりあえず 20,000円をポンドとペンスに替えたが、窓口の黒人系らしい女性は、なかなかてきぱきとはやってくれず、片言の英語も交えてすったもんだのあげく、渡されたままのお金を鷲掴みにしてバスに急がなければいけなかった。
 空港から宿舎のノボテルホテルまでは快適なバスでの移動だった。赤い二階建てバスがたくさん行き交っていて、ロンドンを実感させてくれた。

 
               
                
ロンドン名物二階建てバス

 ホテルでは早速子供たちへ出す絵ハガキを買った。それから、夕食のためにレストランに入る。一人 50ペンスのチップを予め添乗員に渡す。このレストランでの食事がまた何とも悠長なもので、まずスープとパンが出たので、それを平らげると、次のメーンディッシュのポークが全員に配られるまでに20分以上かかる。それを私も辰子も5分もかからず食べてしまう。そしてまたしばらく待つことになる。「何と時間が掛かるんだ。」と不平を言うと、辰子は「そんなこと言ってはだめよ。ゆったりしているのねぇ、と言うのよ。」とたしなめる。腹半分ほどしかならない夕食に、なんと2時間近くかかった。
 夜は、明日のために地下鉄の下見だけしておいて、睡眠不足なので早く休むことにした。



8月23日(水)晴れ

 なんともエキサイティングな一日だった。朝 6:00に起きて、身支度をし、二人で散歩に出た。ホテルの前で昨日撮れなかったビデオとか写 真を撮った。そして、近くの街角を散策した。風は涼しく、半袖のシャツでは少し寒いくらいで、ちょうど日本の初秋といった感じだ。パンやド-ナツを 売っているパン屋、雑誌や新聞、野菜や魚、花など、いろいろな雑貨屋が、露地に店を出しているのを、ひやかして歩いた。



露店の前の辰子


 住宅街にも入ってみた。建物がどこへいっても同じ形で、整然と並んでいるのには驚かされる。それぞれの家の前に路上駐車しているのも、おおらかな感じだ。約1時間半、ロンドンの郊外の町の散歩を楽しんだ。そして、義貴に頼まれていた現地の雑誌 CITY LIMITS TLNE OUT RM や、新聞 NME などを見つけて買うことができたので収穫だった。


 朝食は部屋で済ませていたので、散歩から帰って荷物の片づけをして、もう一晩このホテルに泊まるので、荷物は部屋に置いたままで、9:00 にバスで出発。まずヴィクトリア通りを 走りながら、バスの中からウエストミンスター 寺院の偉大な姿に歓声をあげた。また通りにはレンガ造りのビルが、古風なたたずまい、果 てしなく連ねていて、その美しさに感動した。建物の外観を損ねないために改築はしない。統一された外観の美しさを残したまま、しかし、インテリアは、住んでいる人が使いやすいようにデザインし、改装する。だから、街並みは 200年前のままの美しさが守られている。同じ外観のビルに、医者もいれば銀行もある。サラリーマンも住んでいれば店もある。
 通りを抜けて視界が広がると、最初に目を奪ったのはテムズ川に面した国会議事堂だった。その何本もの塔の聳える、光輝くような威容と傍らのビッグベンをバックに写 真を撮った。



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